最優秀卒業論文賞

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2024年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2025年3月17日の卒業式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

グローバル法学科 飯島 彩湖『水産流通適正化法から考える日本のIUU漁業』

世界の漁業と養殖業を合わせた生産量が年々増加している一方で、IUU漁業による違法漁業が深刻していることにより、正規の漁業者がダメージを受けている。IUU漁業とは、いつ・どこで・何を・どれだけ・どのような形で水産物を漁獲したのかわからない、違法・無報告・無規制で行われている漁業であり、水産資源の乱獲や漁船で働く労働者を搾取する環境問題と人権問題という2つの大きな側面を持つ海の問題である。IUU漁業によって漁獲された水産物(IUU漁獲物)は市場で流通しているが、私たち消費者はどの水産物が違法に漁獲されたものであるかを判別して消費することは難しい。

本論文は、上記のような問題関心のもと、IUU漁業がもたらしている問題状況を整理したうえで、日本やヨーロッパ、アメリカによるIUU漁業への取り組みの現状と残された課題を明らかにした論考である。IUU漁獲物が日本市場で流通・消費される前に、IUUであることが疑わしい水産物を判別し、市場から排除していく仕組みが必要である。本論文は、主として、水産流通適正化法が日本のIUU漁業対策として実効性のある法律であるのか、そして残された課題は何かを検討した。

検討の結果、水産流通適正化法はIUU漁業を取り締まるにあたって実効性はあるものの、IUU漁業を根絶するには不十分であるという評価に達した。また、水産流通適正化法でIUU漁獲物を取り締まるだけではなく、違法漁業者の取り締まりを強化する必要があることも指摘した。

本論文は3章で構成され、次のような流れで論を進めた。Ⅱ章では日本漁業の現状を明らかにし、Ⅲ章ではIUU漁業がもたらす問題と日本のIUU漁業の事例、さらに民間企業による取り組みを整理した。Ⅳ章ではヨーロッパやアメリカによるIUU漁業対策を調査し、それをふまえて日本の水産流通適正化法の改善点を指摘したものである。

講評

まずは日本の漁業の現状からIUU漁業対策そしてヨーロッパやアメリカによるIUU漁業対策も調べており又そこから日本の水産流通適正化の課題そして改善策を提言しており論文としての考察結論が良く出来ている。具体的に評価するところは、水産流通適正化法から日本のIUU漁業を考えるというテーマ自体問題意識が高く又この法律の課題を明確にし、他国の法律や取り組みと比較して日本の取り組みは甘いという結論も非常に分かりやすく、論文として社会に何かを提言するという内容になっており良く出来ていると思う。
自分の意見や考察も多く、文献だけを引用してまとめたという論文ではなく非常に良く出来た論文と評価し最優秀賞とした。

政治学科 萩原 彩友『女性活躍促進に関する考察』

1999年、男女共同参画社会基本法の施行を機に、日本において本格的な男女共同参画社会が構築されてきた。しかしながら現代において、管理職割合における男女格差や政治・理系分野における女性割合の低さ等をはじめとし男女共同参画社会とは言い難い。そこで、社会参画における男女の格差を是正するため、「女性が社会において活躍するための有効な施策」について検討した。

本稿においては、女性の社会的活躍に関する施策として、①仕事と育児を両立できる女性就労の環境整備、②あらゆる分野における女性管理職登用の取り組みの2つに着目して分析を進めた。

①の視点では、年齢階級別女性労働力率の推移と日本国内で制定された女性活躍関連政策の影響を検討し、女性労働力率の上昇に有効な政策として、政策の対象者が絞られている、目標数値を細かく設定している、詳細な計画が示されている取り組みが挙げられた。また、アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデン・韓国との育児休業制度の国際比較、企業に求める職場環境について女子大学生へのアンケート調査を実施し、女性就労の環境整備として、勤務形態の柔軟性が重要であり、政府の政策と民間企業との連携の必要性が明らかになった。

②の視点では、計109企業を取り上げ、女性の活躍推進企業データベースに公表される項目をもとに、女性管理職率を従属変数とした回帰分析を実施し、女性の管理職促進に効果的な民間企業の施策を検討した。女性管理職登用を進めるためには、まず企業における女性割合の増加が重要であり、女性割合を増加させる取り組み事例の公表や女性が継続して就業するための研修実施等が必要であることが導かれた。また、女子大学生へのアンケート調査結果から、女性管理職に対する意識や認定制度の認知度を分析し、企業の認定制度の理解促進が女性就労の増加に繋がることを明らかにした。

以上を検討した結果、少子高齢化や男女間賃金格差の是正などの女性活躍に関する他の要因については引き続き検討が必要だが、女性活躍に関わる政策・制度の理解促進を含めた取り組み実施が、女性労働者増加ひいては女性管理職者増加に繋がると結論づけた。

講評

論文としての形式は概ね良好である。また、雇用面における女性活躍促進について論じていることに加え、審査員としては若年女性の東京への人口流出などを背景として、地方行政では女性活躍を一層促進させる施策が注目されていることからも時機にあった興味深い論文である。
先行研究を踏まえ、女性活躍促進策を3つの時期で分析し、欧米の就業環境整備を取り上げた上、学生が企業に求めるアンケ-トを実施するなど丁寧に論じている。さらに管理職割合に影響を及ぼす項目について、回帰分析を用い検証している。
客観的に独自の知見を論じており、誤字などの文章力の課題を考慮しても、学士としては充分な水準と考えられるので最優秀作品とした。

優秀賞

楠本 佳奈(法律学科)『裁判におけるAI活用の可能性』

森川 希(政治学科)『政治家との交流機会に関する課題と提言』

奨励賞

桝本 一葉(消費情報環境学科)『デジタル・プラットフォーム提供者の違反行為と独占禁止法上の私的独占の罪の適用可能性』

足立 篤彦(グローバル法学科)『バングラデシュにおける児童労働問題とILOの役割』

田中 鈴(グローバル法学科)『「子供の権利」―水不足が与える教育への影響―』

阿部 つむぎ(政治学科)『中国はなぜASEAN市場にEVを進出させるのか―中国共産党の狙い―』

大野 雅也(政治学科)『地方議会の本会議におけるオンライン出席の実現可能性と問題点についての考察』

髙橋 理紗(政治学科)『共通歴史教科書の意義と課題−ドイツ・フランス共通歴史教科書とドイツ・ポーランド共通教科書の取り組みを通して−』

増田 健吾(政治学科)『日本版シリコンバレーを作るための政治的要件と実現可能性−』

参加賞

池田 和樹(政治学科)『加藤友三郎内閣に対する批判的論調の変化―東京朝⽇新聞社説を中⼼にー』